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横浜地方裁判所 昭和63年(わ)2078号 判決

本籍

京都府京都市上京区下立売通御前通西入大宮町四八一番地

住居

東京都新宿区新宿二丁目七番三号 ヴェラハイツ五〇三号

不動産業

谷篤

昭和一五年四月五日生

主文

被告人を懲役一年及び罰金五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、元・同和対策新風会委員長の地位にあったものであるが、昭和五九年一〇月一八日藤井隆次の死亡により同人の財産を妻・芳江と共同相続した右藤井隆次の養子・藤井章夫から、同人らが右相続に伴い納付すべき相続税を免れることについて、元・同和対策新風会理事、元・全日本同和会田辺支部顧問の経歴を持つ小畑一夫及び同和対策新風会全国統括局総局長の中村完とともに相談を受けたのを奇貨として、藤井章夫、小畑一夫、中村完と共謀の上、架空債務を計上して課税価格を減少させる方法により、右藤井章夫の相続税を免れ、かつ、同人を代理人として妻・芳江の相続税を免れさせようと企て、昭和六〇年四月一五日神奈川県厚木市水引一丁目一〇番七号所在の所轄厚木税務署において、同税務署長に対し、被相続人・藤井隆次の死亡により、同人の財産を相続した藤井章夫の正規の課税価格は二億三六八八万二〇〇〇円であり、妻・芳江の正規の課税価格は二億五五〇二万八〇〇〇円であるのに拘わらず、被相続人・藤井隆次には坂本勝夫に対する借入金四億円とこれに対する未払利息二〇〇〇万円の合計四億二〇〇〇万円の債務があり、藤井章夫及び妻・芳江においてそれぞれ二億一〇〇〇万円宛の右債務を負担することとなったので、それぞれの取得価格からこれを控除すると、藤井章夫の課税価格は二七五四万一〇〇〇円、妻・芳江の課税価格は四五〇二万八〇〇〇円となり、これに対する藤井章夫の相続税額は三八六万二七〇〇円であり、妻・芳江の相続税額は六三二万七六〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を、妻・芳江の分については藤井章夫を妻の代理人として、これを提出しもって、不正の行為により、藤井章夫の正規の相続税額一億一四六九万九九〇〇円との差額一億一〇八三万七二〇〇円を免れ、かつ、妻・芳江をして同人の正規の相続税額一億二四二六万一五〇〇円との差額一億一七九三万三九〇〇円を免れさせたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(二通)

一  藤井章夫(三通)、小畑一夫(三通)、中村完(三通)、臼井一政、石射克之、藤井芳江(二通)、荻原育子、松本泰三、山本信行、上妻力夫、坂本勝夫、久米信男(三通)、白河浩、久保浦重紀の検察官に対する各供述調書

一  荻原育子の検察事務官に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の告発書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書

一  大蔵事務官作成の相続税額計算書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料

一  大蔵事務官作成の借入金調査書

一  大蔵事務官作成の土地調査書

一  押収してある相続税の修正申告書控一通(昭和六三年押第五九七号の1)

(法令の適用)

判示行為

相続税法六八条一項、刑法六〇条、藤井芳江の相続税ほ脱分につき更に相続税法七一条一項(懲役と罰金を併科)

科刑上一罪の処理

右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として犯情の重い藤井章夫の相続税ほ脱分に対する罪の刑で処断

労役場留置

刑法一八条

刑の執行猶予

懲役刑につき刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件の犯情をみるに、本件は、共犯の藤井章夫が自己及び妻・芳江の支払うべき相続税を不正の手段により免れて約五〇〇〇万円を利得しようとの考えから、元・同和対策新風会理事、元・全日本同和会田辺支部顧問の肩書を持つ小畑一夫同和対策新風会全国統括局総局長の中村完及び元・同和対策新風会委員長の被告人に対し右相続税の脱税を依頼し、右小畑、中村、藤井及び被告人の四名において共謀の上、合計二億二八七七万一一〇〇円にのぼる相続税をほ脱したものであるが、その手段・方法は大胆かつ巧妙であり、ほ脱額は多額で、ほ脱率も高率であるなど犯情は極めて悪質である。また、被告人は右小畑、中村の両名と知友の間であったところから、それまで互いに面識のなかった右両名を引き合わせるなどして、本件謀議に当たり重要な役割を果しているのであって、その刑責重いものがある。しかしながら、被告人は本件の主犯格とは言えないばかりか、いわば従属的な立場で加担したもので、利得した報酬もかなりの額ではあるが、他の共犯者らと比較して低率であること、被告人にはこれまで罰金刑に処せられた前科はあるが、公判請求を受けたのは初めてであり、本件の量刑に当たって特に考慮すべき前科はないことなどの事情も認められるので、その他諸般の情状を勘案の上、主文のとおりの刑を量定した次第である。

(検察官 野本昌城 出席)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田實秀)

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